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思い返してみても、あれは確かにわたしでした。他人の空似とか、そんなんじゃない。何て言うか、こう……本能的って言うんですか、そういうレベルでわかるんです。おそらく向こうも、自分がわたしだってわかってる。わかった上で、わたしを監視してる。それをわたしに知らせるために、わざとわたしの前に顔を見せたんでしょう。いったい何が目的なのかはわかりませんけど、それは確かなんです。
そして今も、『彼女』はわたしを見ている。きっと近くで、平気で顔を晒しながら。
※
国塚あおいのひとり語りを聞き終えると、僕はスマホのボイスレコーダーのスイッチを切った。そうしてまた不安げに眉を寄せてこちらを見つめてくる彼女に、「お疲れさまでした」とだけ言う。
「あの……信じていただけますか。それとも、やっぱりわたしがおかしくなってるって思われますか?」
「信じますよ」僕は小さく頷いて答えた。「それで、国塚さんは何を望まれますか?」
彼女はまた俯いて、言葉を詰まらせた。それを僕は、急かすことなく待つ。
「わたしは、不安なんです。誰にも信じてもらえないことも辛かったですけど、それも仕方ないこともわかってて。もしかしたらみんなが言うように、わたしのほうがおかしくなってるんじゃないかとも思えてきて。夢遊病みたいに、知らない間に勝手に行動して、それを自分でも覚えていないだけなんじゃないかとも……だからまずは、わたしが変なんじゃないってことをはっきりさせたいんです」
「つまり、『もうひとりのあなた』が確かに存在することを証明するというわけですね。それだけでいいんですか?」
「いえ、もちろんそれが本当なら……『もうひとりのわたし』が本当にいるのなら……いなくなって欲しいです。確かに今のところは、具体的に何かをされたわけではありません。だけど……この先もそうとは限らないと思うと」
そこまでを望むとなると、なかなか難しい問題だった。しかしそう考えるのも当たり前のことではあるのだろう。
「わかりました、精一杯努力します。あなたの希望をできる限り叶えられるように」
国塚あおいは僕の答えにまた驚いたように、目を丸くして凝視してきた。その瞳には、まだ疑いの色も残っている。僕がこの場だけ調子良く話を合わせてあしらおうとしているとでも思っているのか。
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