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 くすくす、と笑う声が聞こえた。暗いので表情までは見えなかったから、どんな意味合いの笑いかまではわからなかったが。 「じゃあ、あなたたちはどうなの。怖くはないの?」 「僕たちがいったい、何を怖がるって言うんだい?」 「あなたたちだって、いずれ必ず死ぬわ。それは怖くないの?」  それと同じではないか、と言いたいのだろう。確かに屁理屈ではあるが、納得できる部分もあったからだ。それが寿命と最初から定められているのであれば、嘆いたってしょうがない。その短い命を悔いなく過ごすことを考えたほうがよっぽど建設的だ。一週間ほどの命を燃やすように鳴き続ける、蝉の成虫のように。 「それに、わたしたちは決して消えるわけではないわ。ただ、生まれた場所に戻って行くだけ。怖いことなんて何もない」  そこまで続けたところで、彼女は饒舌になった自分を恥じるように言葉を切った。そうしてまたちらりと僕を一瞥し、不機嫌そうに声を落として尋ねてくる。 「で、そんなことを訊いてどうするの」 「どうする、ってわけじゃないけど」  僕は一瞬答えに困り、それでもやっぱり、素直な胸の内を伝えようと決めた。 「僕が国塚あおいさんから頼まれたのは、君にまつわる問題を解決すること。つまり、最終的には君に消えてもらうことだ。でも、君の意に反して無理やりに君という存在を消す方法はないし、仮にあったとしても僕はその方法をとるつもりはない」  彼女は小さくふんと鼻を鳴らした。だったらどうするの、と尋ねるように。 「僕はやっぱり君が、国塚さんに害をなす存在だとは思ってない。だからこれから君がやろうとしていることも、その手段が許容できるものであるなら、協力したいと思ってる。そのことは信用してもらいたい」 「許容できるなら、ね。それが許容できるものではなかった場合は?」 「そのときは、目的に合致した別の手段を提案しようと思ってる」  僕はやっぱり甘いのだろうか。とは思っても、今さら自分を変えられるものでもない。  確かに目の前の彼女を排除することだけが目的ならば、他にいくらでも方法がある。もっとも単純なのは、力づくで彼女を拘束してどこかに押し込めておけばいい。そうしていずれ諦めて消えるまで放っておけばいいだけの話だ。しかし僕には、そんなことはできそうになかった。
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