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 待ち合わせに指定していたカフェテリアに入ると、その女性はすぐに見つかった。午後の中途半端な時間とあって客もまばらで、ひとりで座っていたのは彼女だけだったのだ。  僕はゆっくりとテーブルへ歩み寄って行った。その途中で彼女のほうも気付いたのか、少し驚いたように目を丸くして腰を浮かしかけた。どうぞそのままで。僕は手だけでそう伝える。 「ご連絡ありがとうございます、国塚あおいさん」僕はにっこりと笑いかけて言った。あまり警戒しないでくれるとありがたいのだけど。「先日も名乗らせていただきましたが、波留雄生です。どうぞよろしく」  国塚あおいは小声で「……はい」とだけ答えたものの、まだ心ここにあらずといった様子だった。大きな瞳だけが落ち着きなく揺れている。年齢は二十六と聞いていたが、もっと若い印象だった。丸顔に肩までのストレートの髪。少し太めの眉にびっくりしたような大きな目。ぱっと目を引く美人というほどではないが、それでもどこか愛嬌のある可愛らしい顔立ちだった。年の離れた男性から気に入られるタイプだろう。  しかしこう見えて、なかなかの才媛であるとのことだった。何しろ勤務先はTAD(旧東京アドバダイジング)である。業種が違うので一概には比べられないが、僕のかつての勤務先よりもはるかに大きい、国内第三位の大手広告代理店だ。彼女はそこの企画室で、主に都内にある数軒のイベントスペースの運営に携わっているらしい。おそらくは相当に多忙なはずだ。 「僕の顔に何か?」 「いえ、あの……」と言いかけて、彼女はようやく我に返ったようだった。「失礼ですけど……男性、ですよね?」 「よく、どっちだかわからないと言われます。見た目で不安に思われるかもしれませんが、これでももうすぐ三十なんです」  苦笑いしながらそう答えると、あおいは今度は恥ずかしそうに顔を伏せた。 「不安だなんて……そんなことは決して。わたしの変な話を信じてくれるだけでも、とてもありがたいので。それなのに、すぐにご連絡できなくてすみませんでした」 「気にしていませんよ。それも仕方ないってわかっていますから」
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