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やって来た日から、Cさんは漫画ばかり読んでいる。世代が合うのだ。彼女とぼくは同い年だった。コンベアで出会う女の人は、決まって同学年だ。
「引き払わないと」とある日、Cさんが言った。彼女はもといたマンションをまだそのままにしていた。
やめておいたほうがいい、とは言いにくかった。ぼくの愛は約一年、早ければ八カ月で終わる。毎回振られる。ずっとそうだった。微妙な間隔で困る。
前の交際相手のヘアゴムや充電器を処分し終えたころ、ぼくの働く郵便配達所にIくんが勤め出した。彼は二つ年上だったが、くん付けでいいと言うからそうしている。
ぼくと違ってIくんは上級学校卒らしく、三十を過ぎて祖国を後にするいわれはないはずだった。必要不可欠なピースだったかのように職場にがっちりはまって、いきいき働き出した豪放磊落な彼には、コミュニケーションのもつれなんかも似つかわしくない。ではいったいどうしてここに。
「理想があるんじゃない」とCさんが漫画から目を上げず言った。「そういう強い人って自分がしっかりしてるから」
「その理想を追って転職してきたってこと?」
Cさんは左手をひらひら振ってみせた。肯定なのか否定なのか。はっきりしてよと思った。ぼくはちょっと苛々していた。そのことに自分でたじろいだ。
飛び級で愛に着くぼくの仕組みに、ずっと満足してきたけども、二十回も繰り返しているからか、急に鈍麻して、解らなくなった。漫画を読み続けるCさんのどこに、ぼくへの愛がしまってあるというのか。
「お前、ちゃんとプロセス踏まねえからだよ」外回りの最中、Iくんが言った。
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