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「踏もうと思っても踏めないんだよ」とぼくは答えた。そういえば彼とはいつも常語で話している。くん付けでのときのようには、指定された覚えがないのに。
ぼくのおかしなコンベア体質を、Iくんは一も二もなく信じてくれていたが、「変な体質」と切り捨てた。
「そういうIくんは、愛が解るの」
「お前、そういうこそばゆいこと、しれっと訊くなよな」と言ってIくんは屋敷を見上げた。発注者は姿を消したきりなかなか降りてこなかった。「解んねえよ。解んなくていいんだよ、そんなもんは」
解っているのだろうな、少なくとも片鱗は。とぼくは思った。
Iくんは男前で、本人は進んで言わないけども、非常に人気があって、あちこちの女の人と、毎週のように遊んでいた。遊ぶといっても、本当に子どもがするみたいな遊びで、ボウリングとかサーカスとかに行って、それで終わりらしい。
深入りしないその姿勢が、逆に彼を、いかにも愛を知っている人っぽく見せている。それでまた女の人が寄ってくる。良循環だ。
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