コンベア

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祖国に彼女を残してきたのだ、という噂があった。涙ながらに別れたのだとまことしやかに言われていた。一度訊いてみたが、Iくんは怖い笑顔を作って、「ぶしつけって言葉があるな? 知ってるな?」と言った。 「壁を作るんだよ」とCさんが麺を頬張ったままで言った。「芯がしっかりしてる人は秘密主義になるの」 「決まってるの?」 「大人になるに従って、みんな付き合いが純化されていくでしょ。狭く深く。芯のある人は、精神年齢が高いから、小さいころから狭く深くを実施してきているの。そのまま大きくなったから、ある種、過剰なくらい、秘密主義が亢進するのね」 と言うとCさんは麺を頬張った。偶数日だからぼくが作ったカルボナーラは、胡椒の振りすぎで罰ゲームみたいになっていたけども、彼女はまるで気にする素振りを見せず、一心に食べた。 これは確かに愛だ。たまに形をとって現れる愛にぼくは安堵する。 皿を空けたCさんが言った。 「自分ルールを秘密にすることで、芯を守ってるのよ」
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