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ルール。Iくんは確かにたくさんのルールを持っている。酒屋に行くときはいつも皮手袋をしていた。素手で触れたくないのだ。
潔癖体質は筋金入りで、食器は二度洗いしないと気が済まないし、せっかく母国には洗浄便座があるのに、一度も使ったことがないという。
「彼女にも求めちゃうよ、それは。しょうがねえんだよな」と言ってビールを呷った。
ベージュの皮手袋が水滴を吸収し、小さく滲んだ。「だからまあ、容易には付き合えねえよなあ」
「その壁を越えた先に、愛があるのかな」
「お前ほんと愛が好きだな。そんなのねえんだよ、どこにも」
ぼくは小皿の中心を指で撫でまわした。愛が存在しないというのなら、ぼくがCさんと共有している毎日はなんなのだろう?
この半年で、彼女はペンキ屋の職を失し、父親を亡くした。
ぼくは自分のことのように悲しかったし、それは彼女にも伝わっていたと思う。愁嘆は、プラトニックなぼくたちのあいだをピンポン感染した。そうしながら段々と濾過されてきている。
この一連が愛、ではないのか?
「お前の体質のことは承知してっけどよ。なんか、足りねえんだよな」
「足りないのはIくんのほうだ」
「むきになるなよ」Iくんは鷹揚に笑った。
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