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その日も優が私を呼んだ。綾音、今いいかな、と。バスのロータリーだった。
できるだけナチュラルに話が聞けるよう、彼が気遣ってくれるのが分かる。こんなところまで優しいんだなあと余計な想いをかき消して耳を傾ければ、話は瑠華のことだった。言葉にすると難しいことはなく、瑠華は一輝のことが好きで、私と一輝が付き合っているか少なくとも好き合っていると思い込んだらしかった。妹の恋愛事情だからか、優もなんだか照れくさそうである。
「っていうことらしくて。でも別に付き合ってるわけじゃないんでしょ」
「付き合ってはないよ、全然。家とか近いだけで。そんなんじゃないから、ほんとに」
「だよね。なんか、ごめんね」
「いや、本当に気遣わなくて大丈夫だから、別段、何をされたっていうわけじゃないよ」
「瑠華も素直に訊けばいいのにさ、だから、仲良くしてやってくれるかな」
かといって簡単なのはただの三角みたいな関係性だけだった。どうやって仲良くしていくのかはそう上手くいかないのだ。それでも私は頷いて、脳天気すぎるくらいのトーンで分かったよと言う。
私の気持ちのほうは、簡単ではないけれど単純だった。その夜眠りに付きながら、一輝と付き合っているのかと訊かれたとき不自然に否定しすぎたかなあ、なんて思い出して布団の中でのたうち回った。
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