私の左手と、君の心の中。

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 優のせいである。というか、もともとは瑠華のせいだ。一輝を見るたびに、「コイツと付き合うとか…」と思うようになってしまった。もし「好き」の定義が「その人と付き合う未来を考えてしまうこと」なら、今一番好きなのは一輝になってしまう。  瑠華のことは優にも頼んであった。誤解は解いておいてとお願いしたし、私も何となくだけど話しかけるようにした。だが、どうにも思うように行かなかった。いわゆるフェードアウトで徐々に疎遠になることはできてもだんだんよりを戻すのは厄介で、仲直りというのは転機がないといけないらしい。だからといって、「別に私達付き合ってないよ、仲直りしよう」と言って良いものか、瑠華の恋心を馬鹿にしていないだろうか、そもそも瑠華は私と仲直りしたいのか…答えが出ないから、その転機は後回しにしてしまっていた。  そんな状態だから、一輝と喋るたびに気を遣った。喋るたび、隣に立つたび、すれ違うたびに。瑠華に誤解されませんように、と、そして私の中には、優に誤解されませんようにという気持ちも生まれていて、もし「好き」の定義が「気になって避けてしまうこと」なら、好きなのは一輝になってしまう。一番たくさん時間を過ごす人なら、それだって一輝だ。  一番私の頭と心を占めているのは、もちろん別の人で。分かっている、分かっているのだけど。  好きってなんだっけ。  恋って、どこでするんだっけ。
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