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相手方が熱病に倒れたおかげで、出張が短縮された。
わたしは彼氏とアパートに同棲している。
驚いたときの彼の声の裏返りが好きだ。
カエルコールなしでアパートへ。
彼はいつもわたしを第一に考える。
むかし、煙草をやめてと頼んだら、即座にやめた。
鍵を差し込んだ。
このカスタード色の扉の向こうに彼がいる。
キーホルダーの銀のペンギンが、思いがけずノブに衝突して鳴った。
なかであわただしく足音がした。
いぶかしみながら、扉を引いた。
玄関に女物の靴があった。女物の靴が山のようにあった。開けた扉の隙間から、パンプスが、ピンヒールが、ミュールがなだれ出、わたしのローファーを埋めた。うずたかい靴山にさえぎられ、廊下はほとんど見えなかった。山は崩れ続けている。中腹でずり落ちかけるサンダルを、ムートンブーツが押している。
頂点に君臨したうす桃の鼻緒の下駄の奥に、彼の汗だくの顔が見えた。
「妹が来てるんだ」
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