1人が本棚に入れています
本棚に追加
二階建ての店で、大きな吹き抜けをカウンター席が囲んでおり、うちの一つに腰かけて突き出しをたいらげていた俺に、
覚えてる?
と、突然右隣から知らない女が訊いた。
覚えてる。
適当に答えた。俺の唇はオートマチックに吊り上がった。むげに扱ってもいいのに。
頬を硬直させていた女は俺の微笑に吊られた。ブラウンのアイシャドウで肥大した目、暗い店でも奇怪なほど映える一重の猫目を細めて、滑らかな樫のスツールに掛けた。足が浮いていた。
あたしら、だいだいここの真下。
吹き抜けの下の人だかりを指し示す腕はあまりにまっすぐで、道化じみていた。指は厚ぼったく短い。にぎやかし・参謀・三枚目タイプだと解った、そこで思い出した。こいつはムードメーカーまりえだ。中学が同じだった。
そうなんだ。誰と来てんの。
訊ねた。眉を上げて関心を偽装した。
まりえは早くもカウンターに片肘をついて、
それこそ中学のやつらだよ。
俺の鼻を指差しながら言い、フレンドリー瞬でしょ、アジアンビューティ樹真(じゅま)でしょ、センチメンタルたけし、と指折り列挙したところでハッとして、
まあそんな感じ。
と、まだメンバーはいるようだったが、紹介をやめた。俺の無関心が伝わった。彼女のアンテナは参謀らしい感度だ。
あたしらに気付かなかった? オア、スルー?
解んなかった。この店低いだろ、ルクスが。
ルクスって。
彼女は笑ったが、瞳が黒すぎる。なにか別のことを考えている。
最初のコメントを投稿しよう!