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二階建ての店で、大きな吹き抜けをカウンター席が囲んでおり、うちの一つに腰かけて突き出しをたいらげていた俺に、 覚えてる? と、突然右隣から知らない女が訊いた。 覚えてる。 適当に答えた。俺の唇はオートマチックに吊り上がった。むげに扱ってもいいのに。 頬を硬直させていた女は俺の微笑に吊られた。ブラウンのアイシャドウで肥大した目、暗い店でも奇怪なほど映える一重の猫目を細めて、滑らかな樫のスツールに掛けた。足が浮いていた。 あたしら、だいだいここの真下。 吹き抜けの下の人だかりを指し示す腕はあまりにまっすぐで、道化じみていた。指は厚ぼったく短い。にぎやかし・参謀・三枚目タイプだと解った、そこで思い出した。こいつはムードメーカーまりえだ。中学が同じだった。 そうなんだ。誰と来てんの。 訊ねた。眉を上げて関心を偽装した。 まりえは早くもカウンターに片肘をついて、 それこそ中学のやつらだよ。 俺の鼻を指差しながら言い、フレンドリー瞬でしょ、アジアンビューティ樹真(じゅま)でしょ、センチメンタルたけし、と指折り列挙したところでハッとして、 まあそんな感じ。 と、まだメンバーはいるようだったが、紹介をやめた。俺の無関心が伝わった。彼女のアンテナは参謀らしい感度だ。 あたしらに気付かなかった? オア、スルー? 解んなかった。この店低いだろ、ルクスが。 ルクスって。 彼女は笑ったが、瞳が黒すぎる。なにか別のことを考えている。
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