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むしろよく俺を見つけたな。で、よくぞわざわざ階段上がって、絡みにきたな。 嬉しいでしょ? ときめいてる。で、用でもあんの? もぞもぞしたまりえの眉は水平に長い。十四、五のころは急傾斜で細かった。彼女は二秒逡巡したのち、 覚えてる? 事件。 俺は思わず鼻翼を掻いた。一つの命が犯され奪われた事件の記憶に片足を突っ込んでくるぶしまで濡れる。その冷たさまで彼女に知られる。 みんな忘れてんねんで。 彼女が付け足した。一階の人だかりを見下ろして、眉からパウダーをこぼしながら。 俺は一瞬驚いたが、 あーそう。 と答える。あいつらならそうだろう、と納得しながら、盛り上がる階下を眺める。
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