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物語と僕
――高校を卒業したら、小説家になります――
どこまでも澄み切った青空を見ていると、あの時宣言した言葉が耳の奥で聞こえたような気がした。
窓の遥か向こうでは、天高く伸びる入道雲がそんな自分を眺めるように悠然と浮かんでいる。
いつものカフェ、窓際奥から三つ目の席で、佐藤崇は再び手元に視線を戻した。
テーブルの上には閉じられたままの型落ちしたノートパソコンと、隅っこが少し折れた真っ白の原稿用紙。
そして、随分前に空になったグラスには、情けない自分の姿がうっすらと映っていた。
「あれからもう十年か……」
自分の人生と同じく一向に進まなくなった原稿用紙を見て、これまでの苦労を全て吐き出すかのように大きなため息をついた。
口から出た澱んだ空気が、わすがに原稿用紙を遠ざける。
ふと顔を上げると、レジで「ありがとうございました」と元気な声で挨拶する店員の姿が目に入った。
黒髪を一つに括り、その屈託のない笑顔を見ていると、自分との違いがあまりにも色濃く出ていて無性に胸が痛くなる。
小説家を目指して、故郷を捨てた。
いや、故郷だけじゃない。家族も、数少なかった友達も、そして、好きだった人も……
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