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十年前、高校卒業と同時に生まれ育った町を飛び出した。
片手で持てるぐらいの小さな鞄に、入りきらないほどの夢と情熱だけを詰め込んで。
何もかも捨てて前に進めば、見える景色が少しは変わると信じていた。
でも実際は、あの時からまったく進んでいない自分と、あの頃よりも色を失った日常がいつまでも続くだけだった。
そんな自分が物語を書く喜びを知ったのは小学四年生の時、国語の授業の作文がきっかけだった。
配られた真っ白の作文用紙。お題は、自分を主人公にオリジナルの物語を作ること。
それまでノートを取ることも、連絡帳を書くことでさえ嫌いだった自分が、無我夢中で言葉を生み出して四角いマス目を埋めていった。
自分の頭に浮かぶ空想の世界の住人や動物、街や乗り物、それらすべてが一つずつ形になっていく姿が輝いて見えた。
たまたまその作文が学年の優秀作品に選ばれて、校内の掲示板に載ることになった。
まだ小説とも言えない未熟な文字の塊に、自分にしかできないものを初めて見つけたような気がした。
それから時間があれば小説家の真似事をして、物語を作る世界へとどんどん足を踏み入れていった。
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