物語と僕

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例えその文書がどんなに不器用でも、自分の中の空想が現実の世界で形になっていくことに喜びを感じていた。  そんな生活は高校に入学してからも同じで、休み時間や授業中でも暇さえあればペンを握っていた。 しかしその頃になると、純粋に物語を作る楽しさよりも、もっと別のものを小説を書くことで求めるようになっていた。  小説家の真似事をするしか取り柄のなかった自分は、昔からクラスでも浮いた存在だった。  小学生の頃はそんなに気にも留めることはなかったが、高校生になると事情が変わった。  明らかに周りの視線を気にするようになっていく同級生は、一人でいることよりも、その他大勢の人間と仲良くできることの方に価値を置いていく。 孤独よりも見せかけの友情を。本音よりも飾られた虚言を。  常識、肩書き、世間体。四十人一クラスの世界の中で、すでに大人の社会の縮図が立派に築きあげられていた。  学年が上がるにつれて着実に広がっていくそんな現実から逃げるように、ますます僕は小説を書くことに没頭していった。まるで、物語を作ることで自分を主張するように。  そして高校三年生になると、それまで影を潜めていた『受験』という言葉が、今度は教室の空気を染めるようになった。     
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