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当時通っていた学校は、地元ではわりと有名な進学校だったので、周りのクラスメイトは大学合格というゴールに向かって、必死になって勉強していた。他の人間よりも、少しでも良い大学に入るために。
自分も流されるように、そんな空気を吸いながら、気の進まない受験勉強に励んでいた。
これが本当に自分がしたいことなのかと戸惑う思いを、赤本をめくるページで払いのけながら。
胸の中でじわりと煮えたぎるそんな思いは、日を追うごとに色濃くなっていった。
小説という空想の世界が与えてくれる喜びと、日常という現実の世界が自分に与える苦しみ。
振り子のように二つの世界を行き来する自分の心は、次第に小説家になりたいという想いを強くしていった。
ただその選択を選ぶことが、どれほど厳しいことで、そして周りの人に受け入れてもらえないということかは、その時の自分にもはっきりとわかっていた。
でもそんな中で、たった一人だけ僕の夢を応援してくれる人がいた。
その頃僕は週に二回、駅前にある小さな個人塾に通っていた。雑居ビルの三階にある個別指導の塾で、たぶん生徒数は二十人もいなかったと思う。
先生のほとんどが大学生のアルバイトで、僕を担当していた先生も地元の大学に通う女子大生の人だった。
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