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黒髪で背が低く、いかにも度がキツそうな眼鏡を掛けているその姿は、僕が最初に想像していた女子大生というイメージとはあまりにもかけ離れていた。
初対面の印象は「地味」、という言葉しか出てこなかったぐらいだった。
それに、とても不器用な先生だった。
塾の講師をしているくせに話すのが苦手で、教える時は教科書の方を見ているか、下を向いてばかりで絶対に目を合わさない。
「質問があります」と聞けばおどおどした態度で答えていたし、プリントを床に散らばしている姿もよく見かけていた。
自分も人付き合いが苦手で決して器用な方ではないけれど、そんな僕でもこの人は塾の先生には向いていないと思うほどだった。
学校の授業でさえまともに受けていなかったので、塾の時間などまったく身が入らなかった。
明らかにヤル気のない態度でもその先生は注意もせず、ただ自分が適当に聞いたことをいつもぼそぼそと答えていた。
学校も塾も、自分にとって本当につまらない時間だった。
そんなことよりも、周りとの関わりを全て断ち切って、小説を書いている方がよっぽど有意義で充実した過ごし方だと、いつも心の中で思っていた。
本格的な受験シーズンを迎えた高校三年生の夏。模試が終わった直後の学校の三者面談で、僕は初めて小説家になりたいという夢を母親と担任の先生の前で打ち明けた。
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