物語と僕

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正しいことは、どれだけ胸の奥が痛もうと、どれだけ惨めな思いをしたとしても、周りに合わせて生きること。 それがこの世界のルールで、自分が追い求めていることは、それにはそぐわない。  普段あまり話したことがないこの先生も、同じようにそんな言葉と価値観で、僕の心を埋め尽くそうとするのだろうと思った。  乱れた呼吸を落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸すると、僕は恐る恐る顔を上げた。 そこに拒絶という大きな壁があると思っていた自分は、先生の顔を見て驚いた。 滅多に顔を合わせることがない先生が、真っ直ぐな目で僕を見ていたからだ。 その瞳に映る少し怯えた自分を包み込むかのように、先生はそっと微笑むと小さな声で言ってくれた。  私は応援してるから、と――  嬉しかった。今まで否定され続けてきた夢が、初めて自分の存在が、誰かに受け入れられたような気がした。 その言葉は、僕の心の奥底にあった小説を書くという喜びに、再び光を与えてくれた。  それから僕は塾の授業が終わると教室に残って、こっそりと小説を書くようになった。  少しガタつく小さな机に、いっちょ前に原稿用紙を広げて睨めっこ。  そんな僕に、「私も作業があるから」と言って先生は何も言わずに、時間ぎりぎりまで教室を開けてくれていた。     
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