大福

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大福

「ただいまぁ! 大変大変、おっかさん。雪よ! 初雪よ! きっと今日は、かけ(・・)が売れるわ」  つむじ風の勢いで、家へ駆け込んできたお花に、母親のおまさはため息をついた。 「まあまあ何だろうねこの子は、いくつになっても騒々しい。折角坊ちゃんがお見えになってるって言うのに、一体どこへ行っていたんだえ?」 「だからじゃないのよ。はい、これ。あんた好きでしょ、福屋の焼き大福」  炬燵にあたっていながらも、どこか行儀良さげに畏まって座っている庄太郎の前にお花は、潰さぬよう冷まさぬよう大切に大切に懐へ抱いてきた包みを、そうとは見せず、ぽんと投げ出した。  昔の大福は、たっぷりの塩餡が入った大きなものだったと言うけれど、今日(こんにち)では、甘い漉餡を包んで平たく小ぶりに作り、その両面を炙った焼き大福が大層人気を集めていた。  江戸の炬燵に上板は無いが、焼き大福なら炬燵に入ったままでも、かぶりつくことが出来る。 「あ…でも……」  なにしろ庄太郎の父上ときたら、粋が売り物みたいな八丁堀の旦那とも思えぬ、いつでも鬼瓦みたいな顔をした、すこぶる付きの厳しい人で、買い食いなんかはもちろん禁止、甘い物は歯を傷めるとか、ただでさえ病がちで食の細い庄太郎が、晩の御膳を食べられなくなってしまうとか言って、お屋敷でも間食はほとんど許されていなかった。 「いいじゃないの、黙っていれば分かりゃしないわ。甘い物には滋養があんのよ。沢山食べないと、大きくなれないわよ」  ねえさんぶって決め付ける。  同い年だというのに庄太郎は、今でもまだお花よりも小さくて、華奢で線が細かった。 「う……」  たちまち朱くなって膨れっ面をした庄太郎は、しかし、その言葉に背を押されたように手を伸ばし、 「うん、温かい。甘くて美味しいよ」  嬉しそうにぱくついて、心底幸せそうに目を細めてにっこり笑った。  まったく。男の子とは思えないほど綺麗な顔で、なんだかいっそ憎らしくなる。
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