炬燵

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炬燵

 くしゅん――  不意にくしゃみが飛び出して、お花は柄にも無く頬を染めた。 「おや。風邪を引き込んできたんじゃないだろうね。坊ちゃんに伝染(うつ)しちゃいけないよ」  庄太郎は本当にひ弱で、何かといっては熱を出し、幾度かは本当に死にかけたことさえあるくらいなのだ。  ひどい難産の末に生まれ、生まれ落ちた時には産声を上げるどころか息もしていなかったとかいうことで、体が弱いのもそのせいらしい。  母上はその時に命を落としてしまい、おまさが庄太郎の乳母となったから、お花と庄太郎は同じ乳を飲んで育った。いわゆる乳きょうだいというやつだ。  だから、幼い頃にはお花もおまさと一緒にお屋敷に住み込みで、随分と世話を焼いたものだ。あの頃は、いつでもどこへ行くにも一緒で、庄太郎が苛められたり泣かされたりするたび、お花が庇い守ってやった。 「大丈夫だよ。今年はまだ風邪も引いていないんだ」  と、庄太郎は、並みの者なら何の自慢にもならなそうなことを、ぐっと拳を握りしめ胸を張って言う。 「このくらいの寒さで参っていたら、背中にひびを切らしてお見廻りをする、父上の跡は継げないよ」 「その意気よ。そしたらあたしが、お父っつぁんみたいにお供をしてあげるから!」  お花の父の辰五郎は、お上の御用をつとめているのである。 「お花……女は御用聞きにはなれないよ」 「何よぅ。誰がそんなことを決めたのよ。そんな御条法があって?」 「いや、それは……」
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