炬燵

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 くしゅん――  もう一つ、くしゃみが飛び出して、庄太郎が形の良い眉をひそめた。 「着替えた方が良いのではないか? 濡れているようだ。本当に風邪を引いたら大変だよ」 「平気よ。あたしは、あんたとは違うんだから」  お花は、素早く庄太郎の隣に潜り込んだ。  炬燵には、畳の半畳ほどを切って炉を()け、櫓を立てた掘炬燵と、火入れと一緒に移動できる置炬燵とがあるが、金持ち以外はたいがい置炬燵である。夏の間は質に入れておいて、十月初めの亥の子に合わせて、今度は夏の蚊帳を質入れし、引き換えに請け出してくるのだ。  お花の家の炬燵も、ご多分に漏れず小さな置炬燵だ。  家業の蕎麦屋は大いに繁盛しているし、家は広いけれど、辰五郎が御用につぎ込み、子分達を大勢養ったりしているものだから、決して金持ちでは無い。 「温かい……やっぱり、炬燵っていいね」 「……なんだか鼻声だよ、お花。やはり、早く着替えた方がいい」 「やぁよ」  ぐすんと洟をすすってお花は、炬燵布団を引っ張り、庄太郎に身を寄せた。  その温もりが、炬燵以上にお花の心を温める。  だけどこうして、小春日和の陽だまりみたいにぬくぬくとしていられるのは、きっともう本当にあと少し。  乳きょうだいとは言っても、身分が違う。  だから――  あたしはお父っつぁんの跡を継ぐのだと、ちっちゃな頃から言い続けているけど、やっぱり女じゃ無理なのかな。 「ほんとに大丈夫? 少し、顔も赤いみたいだ」  それには答えずにお花は、もう一度洟をすすって炬燵に突っ伏した。
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