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いつも同じミスを繰り返す自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
人は変われると思って生きてきたが、本当にそうなのかわからなくなってきた。
でも、自分を嫌ってみたところで、その欠点が克服されるわけでもないし、しかも死ぬまで付き合わなければならない。
だから今は、愚痴っぽく拗ねるほかない。
「どうした、ずっと下を向いてばっかりじゃないか。らしくないぜ」
知らない男が話しかけてきた。男には両腕がなく、大きな荷物を引きずっている。
「人間誰にだってできないことのひとつやふたつ、あって当たり前じゃないか」
男は大げさに肩をすくめてみせた。
「他のなにかで補えばいい」
―おれに人より優れている所なんて、ないよ。
「どうして長所で補う必要があるんだい?きみができることの中からひとつ、選ぶだけでいい」
そう言うと男は靴を脱いで裸足になった。足の指を器用に使って荷物のファスナーを下ろし、中から年季の入ったエレアコを取り出した。
「最初から全部うまくできる奴なんていない。知ってるだろ?」
左足の指先でパワーコードを抑えて、右足の親指と人差し指でピックを構える。力強く鳴り響くのは、Deep purpleのSmoke on the water。
超シンプルで、超有名なイントロ。その部分だけ弾き終わると、男は荷物をまとめ、立ち上がる。
「腕のない僕でも足を使えばギターは弾ける。君だって弾けるさ」
その足の指先は、皮膚が硬く、厚くなっていた。
立ち去る男のTシャツにプリントされた”GOOD LUCK”の文字は、おれの方を向いているような気がした。
―あの、あんたは…
「ただの通りすがりさ。ま、立ち止まらせたのは君だけど」
男は景色の向こう側に消えた。次にいつ会えるかはわからないけど、また会える気がした。
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