第一章

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第一章

これは私の望み、そうであってほしい、いやきっとそうだったとの希望をお伝えする話だ。  私の姉アーマは、性格・行動・男性関係等人生の全てにおいてだらしのない女だった。アーマは30歳の時に、不倫をした挙句妊娠し捨てられた。男と揉めている間に中絶ができる時期を過ぎていた為、仕方なく私生児を産んだ。子が誕生するまでは里子にだす等とふざけたことを言っていたが、生れてきた子は予想以上に可愛かったらしく、トーマと名付け自分で育てることになった。住み込みの仕事・・・、アーマのプライベートの為に、職業は伏せておこう。とにかくそこで、働きながらトーマと二人の生活を始めた。  あの時、もしかしたらアーマはいい風な人間に変わるかもしれない、トーマという我が子のおかげで改心するかもしれないと、私は一種の安堵感を伴った喜びを感じていた。 突然の電話だった。 「ジークさんの携帯でしょうか?」と、若い男の声。 はて? と首を傾げた。その男は不躾にも、自己紹介もなく話始めた。内容を聞いてると、どうやらアーマが働いている店の店員らしい。その男は、アーマがまだ一ヶ月の息子を怒鳴り散らしたり、叩いたり、抓ったりの虐待行為をしていることを告げてきた。さらに、本人はノイローゼのようになっているから、トーマをどうにかしてほしいと頼んできた。アーマの行動に私の心は瞬間冷凍され、キリキリと痛みながら冷たく固まった。  病院で見たトーマは、それはそれは美しく光っていた。ふんわりと温かく幸せそのものだった。私は男だ。結婚もしていないし彼女もいない。そのような自分が子育てを知らないにしても、ここで「ノー」の答えを出すのは、あまりにも無慈悲過ぎるだろう。
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