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「あたしのクラスでは、両角くんと高館くんはデキてるってことになってるけど……」
「はあ?」
即座に逞しい眉を寄せた両角が、声を裏返らせる。
「何だソレ? 部長、ソレどういう意味だ?」
両角の胡乱な目が、三輪を捉えたまま固まっている。
憤慨も露わに硬直した両角に、三輪は眼鏡の奥から悪戯な視線を送る。
「もちろん、あたしは知ってるから安心してね。二人とも一緒にお弁当食べてるけど、昔からつるんでるだけだから、カップルじゃないって」
「『カップル』って何だ!? 俺たちがホモだってか!?」
気色ばむ両角に、三輪はわざと平坦な口調で答える。
「BLって言ってあげて。当然、両角くんは攻めだから」
「はあ? 試合じゃオレはいつだって攻めるタイプだけどな。何だよ、『びーえる』って。ワケ分からん……」
目を白黒させながら、両角がぶつぶつとこぼす。
困惑しきったその様子から察するに、どうやら両角は三輪の言うことが全く理解できていないようだ。
ある意味でピュアな両角を斜に眺めつつ、三輪は深いため息を洩らす。
「知らないって、本当に幸せ……」
――知らない方が幸せ――
刹那、三輪の胸の奥底に、ぴしっと痛みが走った。
指先に赤く裂けた皸(あかぎれ)にも似た、切り込むような疼き。
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