序章

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序章

「もう一度言います」  白衣を着込んだ男性教師は、深いため息をついた。  色濃く同情が覗く一方、正面に立つ女子生徒を見るその視線は、至極険しい。 「事情は分かりましたが、今期の活動費増額は、今さら認められません。それがルールですから」  昼休み終わり間近の職員室。  教師の多くは、すでに昼食を終えている。午後の授業の準備に余念がない者、生徒との雑談にふける者、あるいは軽くまどろむ者など、午後の始業までのわずかな時間を思い思いに過ごしている。  そんな中、椅子に掛けたこの白衣の教師は、自席の真横に立つ一人の女子生徒と向き合っていた。  ほっそりした長身の肢体を、濃紺のセーラー服に包んだ少女。  理知的な黒曜石の瞳をツーポイントの眼鏡で覆っている。燻し銀のテンプルには精緻なS字型の渦巻きが、ノーズパッドやヒンジのボルトにはケルティックノットがあしらってある。  恐らく手製の逸品だろう。  そんな凝った眼鏡を通しても分かるほど、まつげは繊細で長い。  ほんのりと桜色が透ける玉の唇をきっと引き結び、漂わす空気は凛と張り詰めている。  年は十七才くらい、といったところだろうか。     
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