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 椿と水仙以外の連中は元々別の見世物小屋で働いてたらしい。見世物小屋のことやここに行き着いた経緯等、色々と話を聞きたくて話しかけたが、誰もあまり多くは語らなかった。そう言う場所なんだろうと思えた。  俺だってまさか、蔭間としてどんなことをしてきたかなんて詳細を嬉々として語りたいわけがない。  それでもそれなりに親しくなった水仙が愚痴めいて零したのを纏めるに、元々、椿が見世物小屋を作ろうと思い至ったのが事のが始まりらしい。  母屋と見世になる屋敷を買い取り、人を集めたまではいいが、どうも椿の移り気が激しい。話し合おうと約束した夜に博打や飲みに出かけたりすることも多々あるそうだ。そして話し合いは遅々として進まない。見世を始めるにあたって決めなければいけないことが決まらず、未だに商売としては成り立っていないらしい。  商売をしていない現状で母屋に暮らしている連中の生活費をどう賄っているのだろうか。一番の疑問点であったが藪蛇だろうと思い、ついに口に出すことはなかった。  全てを仕切る椿が毎度何とでもなるだろうと楽観しており、その言葉通りになってきたから今があるのだが。だから、結局のところ何も心配することはなかったんだろう。 「本当に、何を考えているか分からない奴だよ……」  溜息混じりに水仙がそうぼやく。 「椿は昔からああいう人なのか」  なんとなくそう問いかけると水仙は思い出を懐かしむように目を細め、困ったように笑っていた。 「要するに世の中は金なんだよ。私にはそれがあるから」  どんな流れなのかは知らないが、椿と棗が話していた。その会話の最中にけろりとした表情で椿がそんなことを言っていた。  彼女のその言葉にあからさまに不愉快そうな表情を作り、棗が悪態を吐きながら立ち去った。後に残った椿はというとけらけら笑っていた。 「本当のことを言っただけなのに、あの子は気に食わなかったらしい。地獄の沙汰も金次第なんて、昔の人はよく言ったもんだ」  ――それはそうだろう。  棗が悪態を吐きたくなる気持ちも分かる。椿の言うことは間違ってはいないけれど、金さえあればそもそも誰も好き好んでここにはいないだろう。誰だって金さえあれば、広い屋敷に住んで働かず美味いものをたらふく食べるに違いない。その金がないからここにいるというのにそれを簡単に自分は持っているだなんて。椿の性格には最早尊敬の念すら抱ける。
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