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声や喋り方の割には随分と小さな子だと思ったが、よくよく見れば彼女には手足がない。裸でごろりと横たわっている。なんとなく見てはいけないものを見た気がして隣の檻から離れる。彼女の言葉に答えることもせずにその日は終わった。見てはいけないものを見てしまったと思うと胸の奥の方が騒めく。
ああ、きっと、ここの檻の前を通る連中は、こんな気持ちで来るんだろう。金を払ってでも、あの子や僕みたいな人間を見たいと思って来るんだろう。心臓が握りしめられた気分で、自然と涙が出た。
陽が昇って明るくなると見世の主人が大きな声で起こしてくる。老若男女、色んな連中が檻の前を通っていく。
「まぁ、見て。これがだるま女でしょう」
「あの体、一体どうなっているんだ」
「二つ前のあれは流石に人形だよなぁ」
「嫌だわ……なんだか変な臭いがする」
耳が聞こえなくなればいいのに。心が何も感じなればいいのに。
檻の外を歩く人と、檻の中にいる人と、どうしてこうも違うんだろうか。
その夜に、今日はちょっと寒いねと隣の女の子に話しかけた。女の子は嬉しそうに風邪引いちゃうよねぇと答えた。
母が迎えに来て、僕に泣いて謝り続ける夢を幾度か見た。母の顔が薄らいでぼんやりと影がかかっていき、真黒になった頃、僕をここに連れて来た主人が金を持って逃げた。
これからどうしようと頭を悩ませたのは一晩程で、僕を買いたいという男がすぐに現れた。
相変わらず一人で生きてく術もなかったので、二つ返事でついて行った。隣の女の子は少し前に死んでしまった。いくら声をかけても返事がなかった夜の次の日、主人がぴくりとも動かない彼女を引きずって溜息をつき、捨て場所を探しているのを見た。文字通り見世物にされて最後はぽいと捨てられる。今の僕もきっとそういう存在なんだろう。
二番目の主人は悪くはなかった。何がどうしてかはさておき、僕のことを随分と気に入ったらしい。何かが欲しいと言えば買って貰えたし、字や芸事も教えてもらった。見世自体も前のとは随分と違った。
小さな部屋でお茶でも飲みながら客の話し相手をするという形だった。相変わらずろくでもない連中が多く、平均すると客は一日十五人程度と前の見世に比べて少なかったが、夜には疲れていた。
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