5/16
98人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
 そこでようやく僕は、主人に特別気に入られてることを知った。それまではてっきりみんなに勉強を教え、みんなの要望を聞いているものだと思っていたのだ。人に好かれることは気分が良いと思えた。愚かなことにこの主人に対してもそう思っていた。  僕は主人に好かれているから待遇もいい。隣の女の子は可哀想だと、そう憐れむことすらできた。  ある夜、見世が終えた後、主人が僕の部屋へ来た。少し酔っているようだった。その頃には僕はすっかり彼を信頼していた。  特別にと物を買い与え、勉強を学ばせ、芸事を教え、要望を聞き入れる彼を信頼していたのだ。眠たいと訴える目を擦りながらも起き上がろうとした僕に彼が乗っかってくる。 大人の男に乗っかられて逃げ出せる筈もなく、訳も分からず、されるがままだった。興奮した様子で彼は僕の着物を脱がせ、足を抱え、強引に行為に及んだ。  嫌だ、止めてくれ、と泣きながら叫んだが聞き入れられることはなかった。彼はきっと最初から僕をそういう風に見ていたんだろう。対等な立場じゃなかったことくらい分かっていた筈なのに。対等な人として愛してもらえる訳もないのに。信頼した僕が馬鹿だったと気付いた夜だった。  行為が一段落すると、彼は刃物を取り出した。何かを考えるよりも先に謝罪が口をついて出る。何を謝ってるかすらも分からずにひたすら謝り続けた。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!