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 彼女は小さな部屋で横たわって相変わらず何か喋っていた。薄汚れた着物から三本の足が見えた。きっとこれが彼女がここにいる理由なんだろう。  そっと彼女に近寄ると悲鳴が上がる。起き上がり、ぎゃあぎゃあと喚き、泣きじゃくる。近寄らないで、と。僕が誰かいまいち分からないようだった。 「何もしないよ。話を聞いて。ねぇ、ここから一緒に出ようよ」  僕がそう言っても彼女は泣き喚くだけだった。 「しんでしまえ」  ぽつりと彼女が呟く。泣きながら小さな声で。きっと、彼女は僕が誰か分からなくて、何を言っているかも分からなくて、ただただ、周りの人が許せなくて、それだけだったんだろう。  いつの日のことだっただろう。夢の中で殺した女がぼんやりと浮かぶ。何を言っているのかも誰なのかももう分からない女だ。死んでしまえばいいと思って、刃物を刺して殺した女だ。泣き喚く彼女をそのままにして部屋を出た。  それから新しい主人、椿についていった。 「言っておくけど」  そんな前置きをした。 「僕はお前が嫌いで、見世の連中も前の主人も客も嫌いで、この世の中全部が嫌いで、その世の中を生きてる連中、皆が嫌いで、死ねって、そう思ってる」  我ながら要領を得ない幼稚な物言いだと分かっていた。
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