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沙羅双樹
わたしたちは生まれた時から一緒だった。
沙羅と双樹は二人で一人だ。どっちがどっちだなんてそんな話はわたしたちには無意味だ。名前をつけることにすら違和感がある。わたしたちはわたしたち。そのほかの人はそのほかの人だから。
わたしたちは見世物小屋で育った。どこで誰が生んだのかすら分からない。別に興味も湧かなかった。どうでもいいことだった。誰が生んだのかなんてわたしたちには関係ない。そのほかの人のことだから。
赤ん坊の頃から見世物小屋で人の視線に晒されてきたわたしたちにはそれが日常だった。
時々、気持ち悪いとかどうなっているんだとか酷いことも言われた。
だけど、わたしたちからしてみればおかしいのはそのほかの人間の方だった。
一つ頭に細い体、二つしかない足。目は二つ、耳も二つだけで鼻と口なんて一個しかない!それだけでよく器用に動けるものだと思った。
「お喋りができないんだよ」
「それどころか一つのことしか考えられないんだって!」
「ええっ、わたしたちは二つのこと考えられるのにねぇ」
「馬鹿みたいだよね」
「うんうん、馬鹿みたいだ」
わたしたちは寂しくなかった。お喋りも遊ぶこともすぐにできたから。
ほかの人は不便だと思う。一人でお喋りもできなければ一つのことしか考えられなくって遊ぶこともできないんだから。
「棗、棗、見てみて、こっちきて!」
「いいものあげる。菊ちゃんもおいで! 手を出して!」
疑心に満ちた顔をしながら棗が渋々と手を出してきた。その様子をそばで菊が見ている。差し出された手の上に蛇を落としてやるとぎゃあ、と声をだした。
「ふざけんなくそがき! 何すんだよ!」
「えー! 蛇さんと仲良しじゃないのー?」
「舞台ではあんなにい、ちゃ、い、ちゃ、してるのにー!」
「それは舞台上での話だろ馬鹿! おいっ待て!」
ぎゃあぎゃあと喚く棗を菊がなだめている。その二人を後にして足早にその場を立ち去った。追いかけてくる気配はなかった。
「面白かったね!」
「面白かった!」
「次は何しよっか?」
「何しようか?」
顔を見合わせて笑った。
明日はどんな悪戯をしよう。そんなことを考えて話した。毎日とても楽しい。悩んだり落ち込んだりなんて馬鹿なほかの人がすることだ。わたしたちには関係ない。
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