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でも、夜に眠るのは苦手だ。あ、ほら、隣から寝息が聞こえてきた。ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ、寂しくなるのだ。
今日も今日とて悪戯を考えて母屋の廊下を歩いていた。
「沙羅、双樹」
そうしていると不意に名前を呼ばれた。振り返ると水仙が困ったような顔をして立っていた。
「飼育部屋の蛇が何匹か足りなかった。お前たちだろ。悪戯もいい加減にしろよ」
水仙は舞台で使う動物たちの世話をしてる。魚や蛇、鶏や蛙、鼠……それから植物も幾つか。使用人たちと一緒にそれらの面倒を見ている。
人よりもがっしりとした体つきの大男である水仙がちまちまと小さな生き物の世話をしている姿は面白い。どことなく滑稽で笑えてくる。
「え? 蛇? そうだったかな?」
「うーん、どうだったかなぁ?」
顔を見合わせてそう言っていると水仙の大きな溜息が聞こえてくる。
「あのな、困るんだよ。ただ愛玩のために飼ってるんじゃなくて今日だって舞台で使うんだから……」
呆れた様子の彼に向かって持っていた蛙を投げつけた。
「あー! そうだった! 蛙だよね!」
「わぁっ! 忘れるところだったね!」
ぴょんぴょんと跳ね回る蛙を水仙が慌てて追いかけていく。その様子を見てたくさん笑った。
「次は何しよっか?」
「明日は舞台だよ。練習しなきゃ」
ああ、そうだった。忘れるところだった。うっかりしていた。これも二つのことを考えられるわたしたちならではだ。
「羽根突きがしたいね」
「手遊びも好きだよ」
「歌いながら?」
「そう、歌いながら!」
楽しみだとそう言って笑った。舞台は嫌じゃない。たまに酷いことを言う嫌な人もいるけどどうでもよかった。なんでほかの人がわたしたちを見たがるのかはよく分からない。わたしたちは遊んでいるだけなのに。時々、舞台なんて面倒だと思う時もある。だけどたまにくらいだから出てあげてもいい。
夜に寝る時間の方が嫌だった。
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