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「どっちが沙羅でどっちが双樹だったかな」
舞台の練習をしていると柊がそんなことを聞いてきた。舞台の出番が前後だったからというだけの、暇潰しのくだらない話題だろう。
「あっちが沙羅かな?」
「そっちが双樹かも?」
顔を見合わせてどっちだったかな、なんて笑った。
柊もつられて笑った。結局、彼も本当はどっちがどっちであろうとさして興味ないのだろう。
「ああ、次は俺の出番か。応援しててくれよ、可愛い子ちゃんたち」
柊は呼ばれるとそう言った。わたしたちは頑張れと声をかける。柊は弓矢を口にくわえて慣れた足取りで舞台へと進んでいく。
「でも、それ、壊れてるからねー!」
「気を付けないとぶつかるからね!」
間もなく、弓矢が壊れてべちんとぶつかる音。そして痛がる声が聞こえる。
細工に気付かないなんて人気者の彼もどうやら間抜けらしい。ぶつけた跡の残る顔が楽しみだ。
「今日も一日楽しかったね」
「ね、明日も楽しみだね」
布団の中でそんな会話をした。
ああ、今日も寝息が聞こえてきた。
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