沙羅双樹

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「あれっ、こんなところに簪があるよ!」 「わぁ、ほんとだ! 猫ちゃんが入れていったのかなぁ?」  袖から椿の簪を取り出すと彼女は笑った。 「はいはい、そうね。あげるわ。二人とも可愛いから似合うわよ」  椿のことは、好きだ。彼女は優しい。  わたしたちが何をしたって怒らない。ちょっと変わってるところもひっくるめて好きだ。 「着物を脱いで」  初めて花屋敷に来た時にそう言われた。そこはわたしたちにとっては五つ目の見世物小屋だった。  特に理由は分からなかったが脱いだ。わたしたちが着物を脱いで素っ裸になると椿は笑った。 「こんなに躊躇いもせず服を脱いだのはあなたたちが初めてよ!」  そう言われるのは不思議だった。みんなわたしたちの体を見たがるから裸になることに抵抗がなかったのだ。生まれてからずっと見世物小屋で生きてきた。それも五つも知っているのだから多少のことには驚かなくなっていた。それにしたってわたしたちの体を見て何が楽しいのかはよく分からない。  二人だけが裸なのは不公平だからとそう言って彼女も着物を脱いだ。  別に彼女の裸体を見ても何も面白くはない。他人の裸を見るのは初めてじゃないしほかの人の人体がどうなっているのかももう分かっていた。しかし強いて言うならば……。 「おっぱいって大きくなるの?」 「大人になったら大きくなる?」 「どうしたら大きくなるんだろうね?」 「わたしたちはこんなに小さいのにね?」  わたしたちの会話にまた椿が笑った。 「二人はそこが、そんなところが、気になるのね……」  笑いすぎてひいひいと息をしながら彼女がそう言った。  彼女はとっても変な人だけど、そこが好きだとその時そう思った。
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