沙羅双樹

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「椿、なんで椿は椿っていうの?」 「知ってるよ、冬のお花だよね、赤いやつ!」  わたしたちの言葉に椿は悩ましげな声を上げた。 「あら……なんでかしらね。でも名前は器みたいなものだから」  そういうと彼女はにっこりと笑った。 「さぁ、二人ともいい子だからそろそろ寝る時間よ。寝る準備をしたらお部屋に行っておやすみをしてね」  はぁい、と返事をして部屋へと向かった。 「名前が器なの?」 「器に名前がついてるんじゃなくて?」 「わたしたちの名前は?」 「どっちがどっちでも同じだよね?」  やっぱり椿はちょっと変だ。そう思った。  部屋へ行くと使用人の一人が寝る準備を整えてた。最後に彼女がわたしたちに布団をかける。 「それではお二人ともおやすみなさい。失礼致します」  そう言って戸を閉めて出ていった。 「あの人誰だっけ」 「さぁ、分かんない」 「この間飴をくれたのは?」 「うーん、誰だったかな」  先程の彼女のことは何度か見かけた顔だったが名前すら覚えていない。興味が湧かないのだ。この間の露草の使用人の名前もすっかり忘れてしまった。  人は、否、わたしたち以外のほかの人は、他人と関係を築こうとする。それは友達だったり恋人だったりだ。それは孤独に耐えかねてなのだろう。一人だからこそ他人と関係を築こうと関わろうとするんだろう。  わたしたちは一人じゃない。一人で二人。二人で一人。だから他人と関わろうと思わないのだろう。  ああ、今日も寝息が聞こえてきた。  どうか、どうか、お願いします。死ぬ時は一秒で構いません。一瞬で良いんです。  ほんの少しでいいからわたしは先に死ねますように。  わたしは本当の孤独には一瞬たりとも耐えられないだろうから。
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