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 どちらかというと引っ込み思案な方だったと思う。  それでも外へ連れ出してくれる友人や兄がいたから、他の子どもとそう変わりなかっただろう。力も体も人より弱かったが、畑の仕事も手伝っていたし、森や山に入ることに抵抗はなかった。要するに、どこにでもいる小さな村の普通の子供だったのだ。  けれど、ある日、熱を出した。  なかなか熱が下がらず、一日目はずっと傍についててくれた母も二日目は畑に出た。三日目にようやく熱が下がった。四日目も相変わらず具合は悪かったが、家で横になってると父にいつまで寝てるつもりだと言われた。兄が無理はするなと言って、果物を?いてくれた。  五日目には、起き上がって外へと出て簡単な畑作業を手伝い始めたが、相変わらず体の怠さは続いていた。家族にこれ以上心配をかけてはいけないと思い、誰にも言わなかった。  熱が出た日から一週間が経つと、体に発疹ができた。ぶつぶつとした赤いそれは熱を持っており、痛みと痒みがあった。こんな気味の悪い病、誰にも言ってはいけないと、幼心にそう思い、家族にも隠した。肩や太腿にできていて隠すことも簡単だった。いつか治るだろうと信じていたのだが、それは範囲を広げて酷くなるばかりだった。  痛みで起き上がるのも苦痛になった頃、母にだけ打ち明けた。その頃には発疹が全身へと広がっていた。最初にできたものは、痛みこそ収まっていたものの気味の悪い緑色と変色して、治ることは無かった。  母親は驚いた後に涙を流しながら僕を抱きしめ、頭を撫でた。痛かったね、辛かったでしょう、よしよし、と。母親の胸元に顔を埋め、しがみついて泣きじゃくった。  痛みや不安や心細さ、母の愛や安堵といった色々な感情が混ざりあって出てきた涙だった。それからしばらく寝込んだ。発疹は首や顔や手といった、もう隠せない場所にまでできた。  母が街へ行こうと誘ってきた。街に腕のいいお医者さんがいるから見てもらおう、と。  人目につかないようにと布を巻いて母に抱き上げられ、村を出た。村を出る前に兄が僕を抱きしめ、気を付けていってらっしゃい、と言った。泣きそうな顔をしていたのをよく覚えている。  街へ行くのは初めてだった。具合が悪いことと自覚済みである自分の容姿の酷さを抜けば、刺激的な経験だった。色んなお店があると興奮気味に母に話しかけた。母が飴を買ってくれた。楽しい時間だった。
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