インタビュー 1970年某日、マーリア・オウティネンの自宅にて

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……入隊までについてお聞きします。 「1947年、私が14歳になった夏でした。母が病気で亡くなったのです。父は既に故人で、兄は外国に行って船乗りになっていましたから、家に居るのは私と母の二人でした。医者が言うには敗血症だと。数日前には元気いっぱいだった母が見る見る衰弱していくのです」 「母は私の手を握って、「マーリア、貴女は温かいわ。ぬくもりがいっぱいで、お日様みたいね」と言いました。今でもその時の母の手の感触を覚えています。その日の晩に母は息を引き取りました」 「お葬式の後、村長は私を引き取ろうかと言ってくれたんですけど、私は首都に行くことにしました。母のお墓を置いて故郷を出ることに抵抗はありましたけど、それ以上に母が普段言っていた、「これからは女性の時代よ。貴女も女学校を出たら首都に出て、自分の可能性を試しなさい」という言葉に従いたい気持ちがありました」 「村長がヘルシングフォシュの魔法薬剤店の店長へ紹介状を書いてくれました。ひとまずはそこで働いて、身を落ち着けなさいと。初めての一人旅で、初めての首都行きでしたから、ちょっと前まで母恋しさに泣いていた私は、今度は汽車の座席でわくわくそわそわしていました」 「薬剤店の店長は無口でぶっきらぼうでしたがとても良い人でした。私は見習い調合士として働き始めて、よし、首都で一番の薬剤師になるんだと意気込んだのですが、ほどなくして一つ問題があることが判りました。繊細な魔法薬を扱うには私の手は温か過ぎたのです。貴重なマンドラゴラの粉末がすぐに駄目になって……店長は「生まれ持った体質は変えられない。お前の手はぬくもりがありすぎる」って言って……本当に、ガッカリしました。それからは掃除にお茶くみに帳簿の管理などをしていました」 「転機になったのは店長が持ってきたある案内でした。「共和国初の女性飛行士募集!」と書いてあるんです! 店長は、「飛行兵なら手が温かくても問題なかろう。それに、お前こういうの好きだろう?」と。確かに、自分の可能性に賭けるという点で、共和国で初めての女性飛行士になるのは非常に魅力的でした。さっそくその日のうちに願書を提出しました」 「倍率は100倍でしたけど、運良く合格しましたよ。店長も喜んでくれました」
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