インタビュー 1970年某日、マーリア・オウティネンの自宅にて

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「食事をし、部屋に戻って裸になり、「ボール」を抱く。慣れというのは恐ろしいもので、最初の三日間は地獄のような苦しみでしたが、一週間もするとどうということもなくなってきました。退屈だから本が読みたいと言うと、「ボール」を抱き続けるのならばと、何冊も差し入れてもらいました」 「それに、なんだかだんだん「ボール」に愛着が湧き始めたんです。初めは単なる金属の塊だと思っていましたが、素肌で抱いているうちに、これは自分にとってとても愛おしいもので、欠くことのできない存在だと思い込むようになっていました。私だけではありません。みんな次第に「ボール」のことを「うちの子は」と言い始めました。変だと思うでしょう? でも、あなたも私たちと同じ状況に置かれたら、絶対に同じ気持ちになると思いますよ」 「私は読んでいる本を音読し始めました。「うちの子」に読み聞かせをしてあげるんだと……そのことを仲間たちに話したら、みんな真似をし始めました。ただの鉄の塊に読み聞かせをするんです」 「三週間目のある日のことでした。食事から帰ってきて、「うちの子」に触れた時、私は初めて「ぬくもり」を感じたんです。氷のように冷たかった「ボール」が、いつの間にか熱を持っている。何か異変があった時は内線を使って知らせろと言われていたので、私は報告しました。返答は、「問題なし。任務を継続せよ」でした」 「それから数日後、深夜のことでした。私は聞いたことのない音に眠りを覚まされました。コンコンとか、カリカリとかいう、叩くような引っかくような金属音がするんです。それは「うちの子」の中からしていました」 「その時、私の脳裏にある考えが閃きました。これは、金属の塊ではなく、何かの卵なのではないかと。仲間たちも、「うちの子」が音を立て始めたと言うんです。ただ、さっき言ったあのエリサベトは、「金属の殻の卵を産む魔法生物はいない」と言います。でも、私にはどうしても、この「ボール」が何らかの生命を宿しているような気がしてなりませんでした。それからは読み聞かせだけではなく、話しかけるようにもなりました。「早く生まれて来てね」って。何が生まれてくるのか見当もつきませんでしたが、これだけ苦労したんですから、生まれてくるものが邪悪な存在なわけはないという確信がありました」
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