第3章

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 井戸で水を汲み顔を洗うと、漸く寝起きの頭が覚醒した。すっかり生活の一部となった井戸汲みも、我ながら板についてきたと思う。真夏であっても井戸の水は水道管のそれとは比べ物にならない程冷たい。俺はすっかり井戸水を気に入っていた。 「さて、と。帰ってくるまでの間、掃除でもしてようか」  生活臭の無い、昔ながらの家。家具も何も無い広い空間であっても、風に乗って入り込んできた葉や砂などが散らばる事がある。庭も同様だ。  それに加え、庭を放置すると雑草が繁殖してしまう。なので「気が付いた時にやる」。それが暗黙の内に決まった二人のルールだった。  日差しが厳しい時間帯で、出来ればもう少し日が陰ってからにしたかったが、気付いてしまったのだから仕方がない。  日頃の努力の甲斐あってか雑草も比較的少なく、時間を掛けずとも早々に終わりそうなのが救いだった。根からしっかりと摘み取り、一か所に纏めておく。  それが終わったら室内用の箒を持ってきて、部屋の畳の上を念入りに掃いてから、乾いた雑巾で乾拭きする。以前水拭きをした所彼女に怒られた。畳を駄目にしてしまうらしい。畳の上は俺たちの寝床でもある為手入れを怠ってはいけない。快眠をもたらす為にもと、彼女にやり方を教わって身に着けた畳掃除は、今ではすっかりお手の物となった。  纏めておいたゴミを塵取りで取り、ゴミ置き場へと向かう。ゴミ置き場と言っても、目の前にある竹林の奥の方に二人で掘って作った、ただの穴だ。家の片隅にもゴミ捨て場の様な場所はあるのだが、この場に集まるゴミたちの大半が砂や葉と言った軽いものなので、風が吹くとすぐにまた散らかしてしまう。  それならばと穴を掘り、埋める様にその穴に入れればやがて自然に還るだろうと思い付いた。竹林の中は草木が生い茂っているので、風が吹いても簡単には吹き飛ばされないだろう。  ゴミ置き場の場所には目印として、腰の高さ程度の長さがある枝を立てておいた。そんなに目立つものでも無いのでたまに見失いもするが、無いよりはましだろう。 「あったあった」  不自然に立つ枯れ枝を見つけ、その下にある穴を確認する。先日雨が降った為か、以前持ち込んだ砂埃は穴と同化していた。  その雨のせいだろうか、良く見ると以前よりも枝が少し傾いている気がする。目印が倒れては困るので、一度抜いてから少しだけ脇にずらして刺し直した。
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