12人が本棚に入れています
本棚に追加
こんなにも頑なに口を噤む理由が、きっと彼女にはあるのだろう。初めの頃こそ、彼女の頑なな態度に苛立ちを覚えたりもしたが、今ではある意味、諦めの境地となっていた。
手を変え品を変え、様々な切り口で彼女に問いかけて来たものの、どれも決定打には欠け、最後にはいつも彼女に丸め込まれる。
そんなやり取りが俺と彼女の「普通」となっていた。その「普通」が変わってしまうのが怖かった。
けれど、彼女が大丈夫と言い、そのままで良いと言う。何も知らない現状に甘んじるつもりは無いが――きっと今は、このまま生きていて良いのだろう。そう思える程、俺は彼女の事を信じられるようになっていた。
「いつか……、知る事が出来るのでしょうかね」
わざとらしく敬語で彼女に問いかける。
「さあ、それはどうでしょうね」
彼女も冗談めいた言葉ではぐらかす。
これが、俺たちの「普通」だった。
満天の星空を横切る流れ星をまた一つ見届け、俺と彼女は手を繋いだまま、二人だけのこの世界に身を委ねていた。
最初のコメントを投稿しよう!