第3章

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 真っ直ぐに立ったことを確認して、塵取りの中のゴミを穴の中へと入れる。これで掃除の完了だ。 「それにしても、今日はいつもより遅いな」  たまに姿を消す彼女は、俺が顔を洗う頃には戻ってくる。けれど今日は少しいつもより遅い気がした。  ゴミ捨て場まではそんなに距離は無いが、もしかしたら入れ違いになってしまったのかもしれない。庭の片付き具合で気が付けば良いけど。急いで戻ることにしよう。  踵を返した時だった。「それ」を見つけたのは。 「なんだ、あれ」  視界の左側に何かが見えたような気がした。生い茂る草木が邪魔ではっきりとは見えないが、彼女の着物と同じ色が、見えた気がした。  まさか――。  一瞬、急激なめまいの様に視界が揺れた。全身の血が引いていく。心臓の音がやけにうるさく感じた。  距離にして五メートル程度。  「何か」があると分かる距離ではあったが、豊かな自然たちが視界を邪魔して正確な答えまでは分からない。逸る気持ちを抑えながら、それでも自然と急ぎ足になって、その「何か」の所まで近寄った。 「……はあ。びっくりした」  そこには、ゴミ置き場より小さめの穴があって、やはり同じように草や枯れ枝などが置かれていた。そしてそれらに埋められる様にして、紫の布に包まれた何かがそこにはあった。  彼女の着物と同じような色。素材も似ている。けれど随分と泥で汚れてしまっていた。  恐らく砂や土で上から隠す様に覆っていたが、先日の雨で流れてしまい露出してしまったのだろう。  とりあえず、「彼女が倒れて居る」という、自分が予想した最悪なケースは免れたので安堵した。全身の血が上から下へ下がる様な感覚。時間が止まった様に感じるのに、心臓の音だけはやけに煩く聞こえてくる。あんな気持ちはもう懲り懲りだ。  それにしても――。  改めて目の前にある「何か」と向き合ってみる。そして浮かんで来たのは疑問だった。  きっとこれは彼女の持ち物だろう。着物と同じ色合いの綺麗な布が、こんな場所に自然と現れる訳がない。  それならなぜ――。  なぜ、わざわざ私物を汚すような真似をしているのか。  その理由は、この布の中身が知っている。  引き寄せられるように手が伸びる。  中身が見たい。  目が覚めて以来、初めて感じた強烈な欲求だった。  水面に落ちた一雫が、大きく広く波紋作り、そしてまた穏やかさを取り戻す。その様とよく似ていた。
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