吾輩は七面鳥である

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吾輩は七面鳥である

 ――吾輩は七面鳥である。名前はまだない。  クリスマスにおける代表的な食事、それが七面鳥の丸焼き。しかし、七面鳥を食すというのはアメリカスタンダードであって、ここ日本においてはまったくもって一般的ではない。加えて、輸入品のため高価なのだ。  ようするに、クリスマスに七面鳥をわざわざ食べようなどというのは、ごく一部の富裕層のみというわけである。  もう一度、言っておこう。吾輩は七面鳥である。  オリの中に入れられ、日本へ輸送され、今まさに豪邸に運び込まれようとしている、悲しき一羽の七面鳥である。  なぜ生きたまま輸送されてきたのかって?  ここの家主曰く、『まだ生きている新鮮な七面鳥でなければ美味くない!』とのことである。  だが、それが家主の運の尽き。  オリの口が開け放たれた刹那、吾輩の自慢の脚力を以て、大跳躍。慌てふためく家主たちを蹴っ飛ばし、颯爽と外の世界へと旅立ってやった。  ……してやったり。吾輩は新しい世界へと走り出したのだ!  そう思ったのも束の間、吾輩は自身の浅はかさと日本の道路の清潔さを呪った。  ――ないのだ。何もないのだ。     
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