第4章 上映開始

6/7
前へ
/135ページ
次へ
まるで水に浮いているかのような感覚に、私はそっと目を覚ました。 辺りは予想通り自然に囲まれていて、まだうまく動かせない体は夏風に流され漂っていく。遠くでは蝉の声と子供たちの声が聞こえ、その状況に、私はようやく夢を見ているのだと気づいた。 ………明晰夢、だったか?たしかそんな感じの、夢の中でこれが夢だと自覚する現象。 そういえば私はバスの中にいたのだ。これが現実なら、何かの拍子にバスから飛び出して季節が夏になるまでそこで寝ていたということになる。 まあなんというか……控えめに言ってあり得ないだろう。 そこまで考える頃には、徐々に手足が動かせるようになっていた。夢の中でどこまで出来るか検討も付かないが、上体を起こして地面に足を付ける。 ………歩ける。数十秒かけて動作の確認をすると、私はおもむろに足を前に出した。 ここは一体どこだろう。辺りを見渡しながら、妙に現実味のある町の真ん中を歩いていく。 夢の中の世界は、自分の記憶から構築されると聞いたことがある。そう思うと確かに、目も前に広がるこの景色には見覚えがあった。 割れたアスファルトに錆び付いた標識。歩道と道路を区切るフェンスは所々欠け落ち、狭い小道に強い風が吹き抜けていく。 行く先も考えずまっすぐ見える位置に歩いていくと、やがて目の前に公園が現れた。滑り台と砂浜と 木で作られたベンチが2つ。たったそれだけの質素な公園になぜか目を奪われる。 「ねえ、なかないで?」 子供の声が、私の耳に届いた。 再び足を動かしながら声の主を探すと、生い茂る木々の裏側に2つの影を見つける。 一人は目を擦りながら泣きじゃくっていてもう一人は、目に涙を貯めて堪えている。 「だって……さよならしちゃうんでしょ?」 「…………ちょっとだけだよ」 手を伸ばせば触れられるほどに近づいても、二人はこちらに気がつかない。まるで映画をみているかのように淡々と流れる、だが夢だと忘れてしまうほどに現実味の帯びた光景。それを作り出すもの全てに囚われるように、私は足を動かそうとも思えなくなっていた。 「それに、前にも言ったでしょ?『僕はずっと君の味方だよ』って。だからーーーー」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加