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「………ろ?おーい真白」
名前を呼ぶ声に揺さぶられ、私は目を覚ました。
いつの間に眠ってしまったのだろう、まだ微睡みの中から抜け出せない意識では、今ここかどこかさえ検討がつかない。
傾いた首から伝わる温もりと寄りかかっても苦痛にならない柔らかさ。
まるで暖かい毛布に包まれているかのような感覚に、だが今いる場所が、それを到底感じることができないバスの中であることにようやく気づく。
「……あ、すいません!」
窓のほうに体を向けていたはずがいつの間にか逆側になっていたようで、それに気づいた瞬間急いで飛び起きる。
変な体制のせいで傷んだ背中が伸ばされる代わりに、今まで絶妙なバランスを保っていたカバンがずり落ちる。色々なことが急に起こったせいで、さっきまで休ませていた頭はすでにパンク寸前だ。
「………顔、赤くなってるぞ。上映までには直しておけよ」
それはあなたのせいですと、心のなかで呟く。
休息をとった私の体は、朝と比べてすっかり軽くなっていた。ずいぶんと深い眠りに付いていたようで、何か夢も見ていた気がする。だがそれはつまり、潤さんの肩を借りていた時間もそれなりということで。
…………もしかして、寝顔も見られたのだろうか。
いや、というか寝ている私を確認し、起こすという行動まで取ったのだ、見ていないわけがない。
「(あああああ!!…………最悪だ……)」
今度は心のなかで叫んで、つい顔を覆い隠す。
いくら疲れていたとはいえ、いくら睡眠不足が祟ったとはいえ。寝顔を見せたのは失態以外の何者でもない。しかもよりによって相手は潤さんだ。変な顔はしてなかったか、おかしなことはしてなかったか。
今まで考えてこなかったぶんこんな感情に耐性がなくて、頭の整理は依然難しい。乙女というのは面倒だということを実感できたのは、果たして良いのか悪いのか…。
そんな葛藤をしているうちに、バスはゆっくりと速度を下げていく。そしてとうとう動かなくなると同時に、隣から小さな風が私の頬を撫でた。
「おーし、お前ら忘れ物すんなよー」
他のみんなも眠りに付いていたようで、その初動はいつもより遅い。唯一テキパキと行動できたのは潤さんだけで、まるで何かに急かされているように先だってバスを降りていった。
「ーーーーーーーっ?」
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