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その背中を追って立ち上がろうとすると、突然激しい頭痛が私のことを襲った。あまりにも酷く鈍い痛みに、私はつい再び座席に座り込んでしまう。
「どうしたの?乗り物酔いでもした?」
優花はそう言いながら、少しシワになった制服を伸ばした。
肩の下まで流れる綺麗な黒髪と、胸元で揺れる緑色のリボンが春の暖かさを演出する。それがあまりにも突然すぎて、私はつい目を奪われた。
「ううん……なんでもない」
まだ少し、眠気が覚めていないのだろうか。軽く目を擦りながら返事をすると、再び世界は白黒に戻ってしまう。だがその切り替わる一瞬の時間。まばたきした時のまぶたの裏に見えた背中に、なぜか既視感を覚えた。
「そう?、、、ならいいけど、、」
唸り声をあげている恵を引きずりながら足早にバスの外へ向かう優花の姿を見ながら、霧だらけの思考を巡らす。
色が見える原因は何なのだろう。あの背中は誰のものなのだろう。
夢で見た光景はあまり覚えていないはずなのに、どうしてか大切なものであるという感覚だけが執拗に感じられた。
普段は気にしないことなのに、今日はなぜか小さなことでも心がざわついてしまう。
、、、、これじゃ、だめだ。
頬を軽く叩いて、抜けていた気合を入れなおす。なんだか今日は変な日だ。部活の地大切な行事があるのに他のことに目移りしてしまう。集中しなければ。
足元に落ちたままのカバンを拾いようやく立ち上がると、バスの中は私一人になっていた。
急いで外に出ると、潮の香りが微かに鼻孔をくすぐる。まだ少し肌寒い海の風は、だが私の目を覚ますのに最適だった。
「ようやく来たか、、、、もしかしてまた寝てたのか?」
「ち、違いますよ。それより、恵は大丈夫なんですか?」
「恵ちゃんならあっちのほうで天日干ししてるよー」
「そのまま放置してれば干物にでもなりそうっすね、、」
石造りの階段に三角座りをしている恵を横目に見て笑いながらも、みんなどこか緊張が隠せていない。
目の前にそびえたつ建物は想像していたものよりもだいぶ大きく、そして立派な造りをしていた。左右にバランスよく広がった敷地と、来た人を楽しませるために配置された自然。
介護施設としては相当点数の高いその外見は、だがすべてが私たちを威嚇しているように見える。
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