上映開始 2

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「(こんなところで映画流すんだ、、、怖いな)」 いくら当日することがないとはいえ、それは逆を言えばどんな失敗も許されないということだ。撮影時に変な光景や音が混ざっていたり、ストーリー上でちょっとした矛盾が生じていたりと、考慮すべき問題点はいくつもあって。何回も確認したつもりなのに、妙に不安が押し寄せてくる。 そんなことを考えていると、突然声をかけられた。入り口の前で、胸元に名札をピンで止めている一人の女性。ここの職員である彼女に挨拶をし、私たちはさっそく、中に入るように促される。 スリッパに履き替え、手の消毒を済ませ建物の中を進んでいく。施設として使っている人たちから、そこで仕事をしている人たち。休日とは名ばかりのその場所では、数歩歩くたびに人とすれ違って、そのたびに鼓動が上がっていった。 なるべくまっすぐだけを見るようにしながら、前を歩く理子さんについていく。こう言うと失礼だが、理子さんと私の間にはちょうど頭一個分ほど身長に差がある。 そのため前を向いていても充分に視界は開けるのだが、その視線の先に、何やら妙に強調された張り紙が貼ってあるのを見つけた。 「、、、優花、、、あれ、、」 「うん、私も今見つけたわ、、、少し深呼吸する時間をくれる?」 その紙には、「上映会開催!」という文字とともに映画研究部の名前は今日の日時が大きく書かれていた。それもご丁寧に、入場無料など、場所はここだということまで。 明らかにこの施設内で完結しない広告の内容は、ようやくたどり着いた扉を開けた瞬間に危惧から現実に変わる。中にはすでに、敷き詰められた椅子に座る人たちがまばらだか集まっていた。 一目見ただけでも分かる程、大人だったり学生だったり幅広い年代が伺える。まだ準備さえも終わっていないのに、優花と二人で「帰りたい」という話までするほど緊張するのには、それだけでも充分だ。 「よっし、それじゃあやってくぞー」 何食わぬ顔でそう言うと、潤さんは持ってきていた自分のカバンからプロジェクターを取り出した。その間に、先輩方は説明されたとおりに何も張られていない壁にスクリーンのようなものを張り付けていく。その手際の良さは流石の一言で、だがやはり、作業している間少し手が震えているのが見えて笑いをこらえる。そうこうしているうちに、潤さんのほうでは早くも準備が終わったようだった。
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