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色彩 3
春の陽気にウトウトしていると、それだけであっという間に時間は過ぎていく。鐘の音で目を覚ますと、すぐに折り目の付いた教科書と白いままのノートを鞄のなかに押し込んだ。
「はい真白、今日のぶん」
「うんありがとう!いつも助かるよー」
放課後になると同時に、優花から数冊のノートを手渡される。私の目では黒板にかかれた文字は見にくいため、こうして家に帰って書き写すことにしていた。
目が悪いなら、席を変えてもらえばいい。そう思う人もいるだろうが、正直一番前でも見えるかどうか怪しい。
それに私は別に「視力が悪い」わけではないので、誰かの迷惑になるのだけは避けたかった。
………ということで最初はノートを借りること自体渋っていたのだが、優花の「私復習なんてしないから」の一言で借りることになったのだ。あの時の自信に満ち溢れた顔は今でも覚えている。
「よっし、二人とも準備は良い?」
「むしろ恵が最後だけどね……いつもそんなに教科書持ち歩いてるの?」
「忘れ物したくないからね!全教科持ってきてる!」
パンパンになった鞄を背負いながらも、彼女は顔色1つ変えない。
一体あの細く小さい体のどこにそんな力があるのだろうか。私はなにも持たずとも階段を歩くだけで息が切れるというのに……もしかして異常なほど筋肉があるとか?私脱げばすごいんですよ的なあれなのか?
ぶつぶつと適当なことを考えていると、突然窓の外から花火のような音が聞こえた。それに呼応するように、太鼓の音や歓声がこれでもかというほど響き渡る。
「あ、ほら始まったよ!」
「すごい迫力……服装もバラバラで面白いね」
手前では野球のユニフォームの男性が声を荒げ、その奥ではチアガールのような宙を舞っている。先輩方もずっと前から計画を立てていたのだろう。お祭りのような光景に、自然と胸が高鳴る。
「早く行こうよ!何か見たい部活ある?」
「んー……私はまだ決めてないかな」
「私も~」
「え、ちょっと二人とも冷めてない!?……よし、それじゃあ片っ端から全部見に行くよ!」
私が足を動かすより先に、恵の手が私と優花の腕を掴んだ。突然のことで驚いたが、なんとか頭を横にふって平常心を保つ。
「片っ端にって、恵は何部がいいか決めてないの!?」
「もっちろん!やっぱり実際にみた方が面白いじゃん!」
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