色彩 3

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整った顔立ちと優しげな声。何よりあの日に起こった数々の出来事のせいで彼のことは忘れることができないだろう。だがそれでもすぐに分からなかったのは、彼が制服ではない服装だったからだ。 「ねぇねぇ、もしかして知り合い?」 「いや、ちょっとお話したことがあるだけ」 「そうそう。ちょっとお話して、学校まで道案内して、ついでに転んだ時に心配してあげただけだよ」 「ちょ、、なんでそんなことまで言うんですか!?」 さらっと暴露されたことにその場で頭を抱えたくなる。この人……もしかして性格に難ありか…!? 「……そうゆう先輩は何してるんですか?三年生の教室は4階でしたよね?」 他愛もない雑談もおり混ぜながら徐々に話題をすり替えていく。いざというときのために練習しておいたが、まさかこんなところで使うことになるとは…… ……いや、私は何を目指してるんだ。 「ああ、俺は部活中だったんだ。ちょうどいい、ちょと見ていくか?」 「え、いいんですか?」 「体験期間中だからな。歓迎するよ」 珍しく後ろで静かに話を聞いていた二人から了承をもらい、先輩の後ろを付いていく。 窓の外ではまだ大きな声が響いていて、もはや止まる気配すら感じられない。 この先にあったのは何だったか………と思い出すより先に、先輩の背中がピタリと止まった。 「ようこそ、『映画研究部』へ」 開かれた扉の奥には、黒板の半分を覆い隠すほどのモニターと見たこともない変な形の機械。それを凝視しながら固まるように集合しているのは部員だろうが、その人数は両手で数え終わる。 そこは空き教室というよりは秘密基地のように見えて、壁際に置かれた本棚にはびっしりと教材が入っている。………所々変なものも入ってるが、そこは見なかったことにしよう。 「おー潤君お帰り!早かったねぇ!」 「ちゃんと部員見つけてきたか………ってうお、まじで連れてきたのかよ」 まるで珍しいものを見つけたかのように一気に人が周囲を囲む。というかボソッっと「珍しい……!」と聞こえたので、どうやら本当に珍しいようだった。 「待て待て、偶然見つけたから誘っただけだっての。こんな格好で歩かされなくてよかったわ」
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