第1章 色彩

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第1章 色彩

「ん………んぅん……?」 私は今、人生最大の危機を迎えていた。 ビルに隠れた空と太陽の光を、だがそれを見ている余裕も無く人混みの中をかき分けて数分。意気揚々と家を飛び出した私の足は、今となっては飾りも当然だ。 「えっとここをこうだから………あれぇ……?」 今朝初めて袖を通したばかりの制服は、すでに大勢の人との接触で肩の部分がシワになってしまっている。だがそんな事を気にする余裕もなく、緊張であまり休まなかった目をこれでもかというくらいに開く。集合時間まで、あと20分を切っている。 「あの~.…」 「はい!!?」 背後からの声に思わず裏返った返事をする。明らかに困った様子の私には目もくれなかったくせに、今はそそくさと忙しそうに歩くサラリーマンの視線が 集まって恥ずかしい。 「あ、すいません邪魔でしたよね!!ごめんなさい!」 「へっ!?いやいやいやちょっと待って!」 今いるところは駅構内にある線路図の前。道が分からないとは言え長時間佇んでいるのはさすがに迷惑だっただろう。 深々と頭を下げその場を離れようとするも、私に声をかけた男性は肩を掴んで足を止めさせた。 …………まさか、ナンパ……!? 「あの、よかったら案内しましょうか?」 「………うぇ?」 本日何度目か分からない気の抜けた声は電車のアナウンスに消える。何本もの路線が交差するこの駅はずいぶんと広さもあり、そのぶん人も、私の地元の数倍は越えていそうだ。 「その制服、聖栄高校ですよね?なら俺と一緒ですので」 彼はそう言って、優しげな笑顔を浮かべる。 聖栄高校……確かに私が今日入学する学校の名前だ。 ということは彼は私が学校への行き方で迷っていると思って声を掛けてくださったのか!? 精一杯背伸びしてもなお滲み出る田舎者臭を感じて 「ああ、こいつ電車に慣れてないんだな」と優しくしてくださったのか!? それを私はナンパか何かと勝手に思い込んでしまったのか!? …………恥ずかしい 「ああ、やっぱり一年生なんですね。この駅からはたどり着くのに乗り換えが必要なので、覚えないと大変ですよ?」 …………乗り……換え……? なるほど、だから必死に調べた高校近くの駅の名前がここには無かったのか。そこまでは調べてなかったな……反省反省。
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