色彩 3

9/10

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
まさかこのタイミングで誰かに会うなんて思っていなかったので、どうにも上手く頭が回らない。 失礼だと思いながらも軽い相づちを繰り返していると、先輩は二、三度辺りを見渡した後にまた口を開いた。 「よかったら、もうちょっとここにいて」 「え………いいんですか?」 「こんな時間だし見回りも終わるから……よかったら一緒に帰ろう?」 私が返事するより早く、先輩はすぐ隣にあった扉から校内に入っていった。もしかして中からは私が座っていた姿が見えていたのだろうか。扉にはまったく気がつかなくて、そう思うと恥ずかしさが込み上げてくる。先ほどとは違う感情で頭をうずくませながら、私は時間が過ぎるのを待った。 学校からの帰り道は、思ったより静寂に包まれていた。いつもならこの時間は……というよりどの時間でも人がいないことのほうが珍しいので、なんだか不思議な気分だ。 「そういえば、なんであんなところにいたの?友達とか待ってたり?」 「いえ、あの二人は方向が逆なので先に……私は帰ってもやることがないので、ブラブラ~っと歩いてただけです」 先輩とは、今日を除けば入学式以降話したことはなかった。そのため妙な気まずさがあって、それに背中を押されているように足が早まる。 「一週間経ったとはいえ、あまり遅くなったら家族の人も心配するんじゃない?ここらへんは意外と物騒だよ?」 「私ももう高校生ですし大丈夫です!母にはいつも『危ないことはするな』って言われるんですけど……」 「ははは、まあ仲が良さそうでよかった。入部届けには保護者のサインも必要だから、それでダメって言われたら元も子もないからね~」 先輩の「入部」という言葉に思わずドキッとする。 恵と優花は、明日にはもう入部届けを提出するだろう。 優しい母のことだ。恐らく頑張れと背中を押してくれるだろう。 だけど……… 「………もしかして、何か迷い事があったりする?」 「え……?いや……」 「いいのいいの。俺で解決できるようなものならどんどん言って?」 心が見透かされたような感覚。突然核心を突く言葉に戸惑いを隠せずいると、先輩が「変わらないな……」と呟いた。 「え?何かいいました?」 「いやいやこっちの話。それよりそっちこそ、何もないの?」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加