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まさかこのタイミングで誰かに会うなんて思っていなかったので、どうにも上手く頭が回らない。
失礼だと思いながらも軽い相づちを繰り返していると、先輩は二、三度辺りを見渡した後にまた口を開いた。
「よかったら、もうちょっとここにいて」
「え………いいんですか?」
「こんな時間だし見回りも終わるから……よかったら一緒に帰ろう?」
私が返事するより早く、先輩はすぐ隣にあった扉から校内に入っていった。もしかして中からは私が座っていた姿が見えていたのだろうか。扉にはまったく気がつかなくて、そう思うと恥ずかしさが込み上げてくる。先ほどとは違う感情で頭をうずくませながら、私は時間が過ぎるのを待った。
学校からの帰り道は、思ったより静寂に包まれていた。いつもならこの時間は……というよりどの時間でも人がいないことのほうが珍しいので、なんだか不思議な気分だ。
「そういえば、なんであんなところにいたの?友達とか待ってたり?」
「いえ、あの二人は方向が逆なので先に……私は帰ってもやることがないので、ブラブラ~っと歩いてただけです」
先輩とは、今日を除けば入学式以降話したことはなかった。そのため妙な気まずさがあって、それに背中を押されているように足が早まる。
「一週間経ったとはいえ、あまり遅くなったら家族の人も心配するんじゃない?ここらへんは意外と物騒だよ?」
「私ももう高校生ですし大丈夫です!母にはいつも『危ないことはするな』って言われるんですけど……」
「ははは、まあ仲が良さそうでよかった。入部届けには保護者のサインも必要だから、それでダメって言われたら元も子もないからね~」
先輩の「入部」という言葉に思わずドキッとする。
恵と優花は、明日にはもう入部届けを提出するだろう。
優しい母のことだ。恐らく頑張れと背中を押してくれるだろう。
だけど………
「………もしかして、何か迷い事があったりする?」
「え……?いや……」
「いいのいいの。俺で解決できるようなものならどんどん言って?」
心が見透かされたような感覚。突然核心を突く言葉に戸惑いを隠せずいると、先輩が「変わらないな……」と呟いた。
「え?何かいいました?」
「いやいやこっちの話。それよりそっちこそ、何もないの?」
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