3人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
静寂が再び二人を包み込む。
言うべきか言わないべきか。言っても解決するか分からないし、だが言わなくても悩むだけ。
道を歩いている人が誰もいなくてよかった。こんな状況であるこうものなら、状況判断が上手くできなくて色んなものにぶつかっていただろう。
「…………私なんかが、本当に部活に入っていいのかなって思ってるんです」
気がつけば、そうポツリと呟いていた。まるで心が、微かな希望に助けを求めているように。
「別にやりたくないって訳じゃありません。むしろやりたいって気持ちはありますし、先輩の言葉に感動だってしました。でも……」
なぜ私がこんなことを口走っているのか、私にさえ理解できなかった。先輩は静かに耳を傾けたままうつむいていて、ここからじゃ表情が見えない。
「………みんなの足を引っ張ってしまうんじゃないかなって」
みんなにとっての普通が、私のせいで台無しになってしまうことがあった。
私にとっての普通が、みんなにとっての異常だと知ったことがあった。
いつからだろう。反射的に笑みを作って、誤魔化せるようになったのは。
いつからだろう。自分の心に、嘘をつくようになったのは。
このやりたいという気持ちさえ、もしかしたら本当じゃ無いのかもしれない。恵と優花があの場にいなければ、もしかしたら入ろうなんて思わなかったかもしれない。
そして二人と一緒の部活に入って一緒にいる時間が増えれば、当然隠しきれないところが生まれるだろう。
そうなれば全てが無駄になる。これまでも、またこれからの3年間も。
あの事が……バレてしまったら
「…………それはさ」
先輩の声は、なぜだかやけに落ち着いていた。
先輩は優しいから、よく相談を受けたりするんだろうか。その目は突然のことに驚いているようにも見えないし、かといって軽蔑しているようにも見えない。
私にとっては唯一無二である私という存在も、先輩から見れば有象無象の中の一人なのだ。
二人を取り巻く空気が、徐々に歪み始めていく。どうせ誰も「私」を知らないんだ。いや別に、知ってほしいなんて………
「それは、君が色を見えないことと何か関係があるの?」
「………………え?」
冷たい風が、ひゅうという音を立てながら二人の間を通り抜けた。
最初のコメントを投稿しよう!